2023.12.26
お菓子な博物館 第35回 ~ 辰年 龍が描かれた引札 編 ~
更新日 : 2024年02月15日
貴重なコレクションを皆様にご紹介する 「お菓子な博物館」へようこそ
目次
あっという間に2023年も残りわずかとなりましたね。
来たる2024年の干支は辰、ということで、干支シリーズ3回目は龍が描かれた引札をご紹介したいと思います。
出典:写真AC
1.引札(ひきふだ)とは
これまでにも何度かご紹介している 引札(ひきふだ)とは、江戸時代後期から大正時代頃にみられた「ちらし広告」のことで、特に明治30年代以降は印刷技術の向上もあり、各商店が好みの図柄を選び、店名等を入れて印刷したものを顧客に配っていたようです。
暦入りのものや、年末に配られることも多かったので、現在の企業名入のカレンダーのような存在と言えるかもしれません。
2.龍が描かれた引札
①-1
「御菓子製造并ニ砂糖類 卸小売商」の引札で、約53×38cmとサイズは大きめです。
龍の宝船に乗る、七福神が描かれています。
①-2
宝船の部分をアップにしたものがこちらです。
大黒の持つ扇子には『御得意万歳』とあり、大変おめでたい図柄となっています。
①-3
引札の下部には明治37年(1904)の暦として、左側に旧暦、右側に新暦を掲載しています。
そして偶然にも、明治37年は2024年と同じ、甲辰(きのえたつ)年にあたります!!
《甲辰とは、十干と十二支を組み合わせた六十干支(ろくじっかんし)という分類の一つです。甲子(きのえね)から始まり、60種類を一巡して〝もとの暦に還る〟ことから、60歳は「還暦」となります。 》
ちょうど二巡したことになりますが、120年前のものとは思えないですよね。
②
「菓子製造 并ニ掛もの砂糖類」を扱う商店の引札です。
『平経政の琵琶(たいらのつねまさのびわ)』のタイトルがついたこの図柄、描かれている平経政(経正)は清盛の甥で、敦盛の兄にあたり、琵琶の名手として知られています。
源義仲追討の副将軍として北陸へ向かう途中、琵琶湖の竹生島(ちくぶしま)で秘曲を奉納すると龍が現れたという物語に基づいたものです。
この商店のあった“野洲郡”とは現在の滋賀県野洲(やす)市、やはり琵琶湖に縁のある図柄を選んだようです。
③
最後に番外編。こちらは菓子袋に描かれた龍の宝船に乗る七福神です。(大きさは約30cm×20cm)
浮世絵師、一猛斎芳虎(歌川芳虎)のもので、以前、外部の方に菓子袋について調査いただい際に、名主印<左端中央の印>から制作年も嘉永2年~4年(1849~1851)頃のものと推察されています。
菓子袋として利用されていたことから、上部に紐を通す穴が開いています。
④
以前紹介した明治時代の引札(抜粋)に描かれていた砂糖袋。菓子袋も同じように上部を折り返し、紐を通していました。
菓子袋もまだ他にたくさんありますので、別の機会にご紹介できればと思っています。
さて、今回はここまで。
龍は想像上の生物ですので、その描き方は様々ですが、七福神と組み合わせるなど、縁起の良さが感じられます。
2024年も皆様にとって幸運な年でありますように。
※前回の記事はこちら
お菓子な博物館 第34回 ~ レトロなラベル‼昭和のサイダー編 ~
◎干支シリーズの第1回、2021年の丑年にちなんだ牛の引札はこちら。
◎第2回 2023年の卯年にちなんだうさぎの引札はこちら。
お菓子な博物館 第32回 ~ 卯年 うさぎが描かれた引札 編 ~
<今回の展示品>
① 引札 御菓子製造并ニ砂糖類卸小売商 山根儀之助/明治36年発行 約53×38cm
② 引札 菓子製造并ニ掛もの砂糖類 西村商店/明治時代後期 約26×37cm
③ 菓子袋 宝船に七福神 一猛斎芳虎/嘉永2年~4年(1849~1851)頃 約30×20cm
④ 菓子袋参考資料 引札 (抜粋)
所蔵及び掲載画像撮影:株式会社山星屋
yoshi
お菓子と歴史が大好きな、「お菓子な博物館」の専属学芸員。ここでしか見られない、貴重なコレクションを独自目線で皆様にご紹介します。好きなお菓子はロングセラーの定番商品。でも新製品も気になる(笑)