2020.12.25
お菓子な博物館 第12回 ~丑年 牛の描かれた引札 前編~
目次
いろいろあった2020年も残りわずかとなりました。2021年の干支は丑、ということで、今回は牛が描かれた引札をご紹介したいと思います。
1. 引札(ひきふだ)とは
引札(ひきふだ)とは江戸後期~大正時代頃にみられた「ちらし」のことで、特に明治30年代以降は印刷技術の向上もあり、各商店が好みの図柄を選び、店名等を入れて印刷したものを顧客に配っていたようです。暦入りのものや、年末に配られることも多かったので、現代の企業名入のカレンダーのようなものといえるでしょうか。図柄には当時の世相がわかるものも多く、この「お菓子な博物館」の第1回でも明治時代の菓子店を描いた引札をご紹介しております。
2. 略歴(りゃくれき)入りの引札
①
明治33年の略暦(りゃくれき)入りの牛乳搾取所の引札です。(明治32年発行)右は略暦部分を拡大したものです。 略暦というだけあって、当時の祝日や節分・夏至・冬至・土用等の月日の他、日曜日だけの一覧もあり、暦の必要な部分だけが凝縮されています。この略歴部分の実際のサイズは約9.5×8cm、かなり文字は小さめです。 引札をみると、店名を印刷する部分が牛乳をいれる缶の形にデザインされています。 この時代、牛乳は手前の男性が引いているような荷車で配達されていたようです。
②
こちらは明治35年の略暦(りゃくれき)入りの牛乳販売店の引札です。 赤い丸の中に「福々とまめにそだちし乳兄弟」 の文字。同じ牛乳を飲んで育ったのでしょうか。
③
明治40年の略暦入りの牛乳搾取所のもの。女性の持つ「直配達」に入っているのは当時の牛乳瓶です。 よく見ると、小さな子を乗せた子牛をひき、今にも倒れそうな牛乳瓶を優雅に運ぶという驚きの構図、まさに引札ならでは。
④
越生・坂戸(埼玉県)にあった、上記③と同じ牛乳搾取販売所の明治35年略暦入りの引札。こちらも右下には牛乳瓶と缶が描かれています。当時の牛乳瓶は細身だったようです。牧場の様子もこういった引札からうかがい知ることができます。
⑤
最後にご紹介するのは、明治34年略歴入りの牛乳販売所の引札です。洋装の恵比寿・大黒が乳しぼりをすると小判のようなものが出てくる、というおめでたいもの。④の引札と同じく、絵の右側に「国一」の名が入っており、明治時代の絵師、尾竹国一が手掛けたものとわかります。
こうしてみると、やはり牛が描かれている図柄は、牛乳の搾取所か販売店の引札が多いようです。 中でも、今回は略暦の入ったものを取り上げましたが、まだまだご紹介しきれない引札もたくさんあります。後編へと続きますので、お楽しみに。
※前回の記事はこちら⇩
> お菓子な博物館 第11回 ~クリスマス <イギリスのクリスマスケーキ>編~
※牛に関する記事はこちら⇩
> 【2021年は丑年】牛(うし)にちなんだお菓子を集めてみた!
※次回の記事(後編)はこちら⇩
> お菓子な博物館 第13回 ~丑年 牛の描かれた引札 後編~
<今回の展示品>
① 引札 牛乳搾取所 若林牛乳園(明治33年略暦)/明治32年発行 約37×26cm
② 引札 牛乳大販売 岩辺牛乳店(明治35年略暦)/明治34年発行 約26×38cm
③ 引札 牛乳搾取販売所 旭峯社(明治40年略暦)/明治39年発行 約26×37cm
④ 引札 牛乳搾取販売所 旭峯社 林牛乳店(明治35年略暦)/明治34年発行 約26×37cm
⑤ 引札 牛乳販売所 共立牧畜場(明治34年略暦)/明治33年発行 約25×38cm
所蔵:株式会社山星屋
yoshi
お菓子と歴史が大好きな、「お菓子な博物館」の専属学芸員。ここでしか見られない、貴重なコレクションを独自目線で皆様にご紹介します。好きなお菓子はロングセラーの定番商品。でも新製品も気になる(笑)