2021.03.29
お菓子な博物館 第15回 ~お菓子の木型 前編~
更新日 : 2021年04月26日
目次
春がやってきました。そして、この「お菓子の博物館」も連載1周年を迎えました。これまでご覧いただいた皆様に、お礼申し上げます。(そして、ファンがさらに増えていることを期待。)
今回は地味な存在ですが、「実はすごい」、お菓子の木型をご紹介します。
1.菓子木型とは
米粉などの穀類の粉と砂糖を混ぜ、木型で打ち抜いて作られる干菓子、落雁(らくがん)。その上品な美味しさは今も愛されていますが、最近では口にする機会も少ないのではないでしょうか。(地方によってはお盆のお供えのイメージがあるかもしれません。)
出典:写真AC
しかし、その歴史は古く、室町時代にはその名がおこったと言われています。落雁(らくがん)の名の由来も諸説ありますが、“空から舞い降りる雁”からというのも納得できる、雅なお菓子です。そして、この落雁作りに欠かせないのが木型なのです。(もちろん、落雁以外の和菓子にも、木型は使われています。)
木型の形には持ち手のついた羽子板状のもの、枠のあるもの、組み合わせになっているものなどがあり、そこに彫られた図柄には木型職人の技がすべて注ぎ込まれています。特に江戸時代の木型には美術的価値の高いものも多く、老舗の菓子屋などでは今でも大切に保存されています。
2.江戸時代の菓子木型
①
これは裏に「寛政八年」(1796)の墨書きがある江戸時代の大型の木型です。
(縦 約25cm×長さ(持ち手含む) 約54cm×厚さ 約3cm)
地紙(扇に貼る紙)型に「波に日の出」のめでたい図柄です。この時代はまだ砂糖が貴重品であった為、ごく一部で作られていたものと思われます。また、ここからどのような色味の菓子が作られたのか、想像するのも楽しいですね。
②
こちらも上記①と同じ頃と思われる、江戸時代の大型の菓子木型です。
(縦 約23cm×長さ(持ち手含む) 約42cm×厚さ 約3cm)
彫られている図柄は「鯛車」、郷土玩具の一つで、張り子または木製の鯛に車をつけて引き回せるものです。
形は羽子板のようですが、実際に持ってみると、ずっしりとした重量感があります。これだけ大きいと、型から上手く外すにも、かなり熟練の技が必要そうです。
出典:写真AC
3.菓子木型いろいろ
ここからは、実用的な菓子木型をご紹介。
③-1
さて、この木型からはどんなお菓子ができるのでしょうか。
③-2
1度に20個の「千鳥」を作ることができる木型です。しかも、よく見ると千鳥は2種類、細かい技が光ります。木枠が付いている為、取り外しがしやすくなっています。
④
こちらは「昭和八年五月 新調」の記載がある木型。(別に枠があります。)左から海老・亀・鶴の3点セット。お祝い事に使われたのでしょうね。
⑤
そして、松に山の図柄はやはり、「富士山」でしょうか。
⑥
和菓子は贈答品や引き出物などに使われることが多い為、お祝い向けの図柄が多いですが、それ以外にも様々な図柄が見られます。変わったところで、「こけし」です。(持ち手はなく、別に枠がある木型です。)何に使われたのか、気になるところですが、着物の裾にさりげなく温泉マーク♨が入っているので、お土産用なのかもしれません。
出典:写真AC
菓子木型は、本来は表にでることはない、地味な道具です。ただ、ここから色鮮やかな菓子が作られる工程を知ったり、また木型そのものを工芸品として見てみたりすると、とても面白い存在です。 まだまだ紹介したい菓子木型はたくさんあるのですが、前編はここまで。
後編には外国の木型が登場します!ぜひ、後半ページもチェックしてみてください!
※後半記事はこちら⇩
※前回の記事はこちら⇩
> お菓子な博物館 第14回 ~2月28日はビスケットの日 編~
<今回の展示品>
① 菓子木型(把手付・一枚型)「日の出」 /江戸時代 寛政8年(1796) 約25cm×54cm×3cm
② 菓子木型(把手付・一枚型)「鯛車」/江戸時代 約23cm×42cm×2.5cm
③ 菓子木型(把手付・枠付・二枚型)「千鳥」/江戸時代 元治元年(1864) 約6cm×40cm×2.5cm
④ 菓子木型(把手付・枠付・二枚型)「日の出鶴、亀、扇海老」/昭和8年(1933) 約8cm×42cm×2cm
⑤ 菓子木型(把手付・一枚型)「富士山に松」/昭和時代 約7cm×36cm×2cm
⑥ 菓子木型(枠付・二枚型)「こけし」/昭和時代 約25cm×15cm×3cm
所蔵:株式会社山星屋
yoshi
お菓子と歴史が大好きな、「お菓子な博物館」の専属学芸員。ここでしか見られない、貴重なコレクションを独自目線で皆様にご紹介します。好きなお菓子はロングセラーの定番商品。でも新製品も気になる(笑)